イベント

15人の移住者が高校生の背中をそっと押す。そんな新しい関係をつくる「座談会」を企画しました。

2020年8月21日(金)珠洲市に住む移住者、珠洲に帰ってきて暮らすUターン者と、地元飯田高校との「座談会」を開催しました。地元の県立飯田高校では、珠洲市と隣町にある能登町から通う学生333人が在校しています。

そのなかでも、面白い授業が飯田高校にはあります。「ゆめかなプロジェクト」と呼ばれる探究型の授業です。隔週金曜日の2時間を使って行われ、学生たちが自ら学びたい分野やテーマを決め、調べ、企画や実験をし、外へ出たりと、まさに自由時間。以前、奥能登国際芸術祭のイベント「奥能登マイコロ映像祭」でも、学生たちが映像制作として作品を制作し、作家さんと展示をしました。そのほかにも、廃列車カフェを短期間オープンしたり、科学の授業を小学生に教えに行ったり、地域で余った食材のおからを使って、調理実習をしたり、テーマは様々です。

今回は、サポートスズとゆめかなプロジェクトがコラボレーションした第一回目のイベントレポートをお届けします!

好きなコトで好きな町に貢献!

高校生とじっくり話す機会をつくりたいと始まった座談会

芸術祭が延期となった今、コロナ禍で自分たちの身の回りで地域に貢献できることをなにかやってみたいと思い、生まれた企画が高校生との対話式の座談会でした。

さまざまな場所から集まる移住者は、過去の進路も、珠洲に来た理由も異なっています。それは高校生にとって、一見間逆にみえる進路ですが、自分が知らないことを知るいい機会になるのではと考えました。

  1. どんなきっかけで珠洲に来たのか(または、戻ってきたのか)
  2. 大学時代はどんなことに興味を持ち、なにを学んでいたのか
  3. いま珠洲でどんなことを考えながら仕事をし暮らしているのか

この3つのポイントを軸にスライドを用意してもらい、一方的に話すのではなく、対話できるような雰囲気で行いながら、また外から来た年齢の近い、第三の大人(移住者)だから話せることを自由に語らうことが狙いです。

奥能登塩田村の塩ラムネで乾杯!

今回の対象は102人の1年生。学年的に進路の選択より、現在の珠洲の実態を移住者やUターン者を通して知ってもらえたら、なにか今まで思いもしなかった新しい発見につながるのではないか。また、「こんな愉快な人達が珠洲に移住しているんだ、面白いな」と思ってもらい、今抱える小さな悩みや将来への不安、そしてやってみたい夢や思い描く人生を語り合い、そっと高校生の背中をやさしく押すことができたらと思いました。

そこで身の回りの移住者、そして、珠洲に戻ってきて働いているUターンの方に声をかけました。全国に移り住みながら、珠洲に最近移住してきた人から、新卒で珠洲のデザイン事務所で働く人、芸術祭に携わる人、戻ってきて家業である農家を継ぐ人、世界を旅し、自分で本を執筆する人など、15人が集まりました。

用意したスライドで、高校生へ真剣な眼差しで話す移住者。

2時間という限られた時間のなかで、なるべく自分が聞きたいと思う人の話を聞いてほしい、そのために、15グループ振り分けるための事前アンケートを行い、いま高校生が興味のあること、奥能登で暮らすなか感じている不安などを書いてもらいました。

質問を投げられて戸惑いながらも、考える高校生

例えば

  • 10年以内にどこかと合併して、場合によっては人口の差が広がりそう
  • 過疎化、少子高齢化、建物の老朽化、空き家の増加が不安
  • 少子化で保育所が合併することによって少人数の幼馴染の大切さが薄まる
  • 移住者がたくさん来て人口が増えてほしい
  • 伝統行事や祭りは人口が少なくなっても続くのか
  • ネットの回線が悪く、遊びに行くところがない

高校生が抱える悩みは事前に移住者、Uターンのメンバー間でシェアし、座談会ではメンバーを変えて2回行いました。1回目は考えられたグループに対し、2回目は移住者とUターン者の一覧表から自分が興味の湧いた人の話を聞きに行くスタイルにしました。

自分の大学での学びや珠洲に行き着いたことを話しながら高校生のやりたいことも聞く

なかなかはじめましてで、思ったことをお互いに話すことが難しいことも懸念し、授業終わりに、高校生から移住者・Uターン者にお手紙を書き、そこに返信をつけてお返しをする仕組みも考えました。

これからも継続的に関係を持てるよう、互いに名前や話したことを忘れないようにするためです。

ほかの地域と珠洲…どんな違いがあるんだろう?

高校生の感想からわかること

うれしいことに、生徒さんから頂いた感想の一部を紹介します。

地元から離れることでほかの地域の良さも地元の良さもわかる。人の話を聞いてみると面白いことがわかった。

僕の好きな人間のタイプだ。いい意味で少し変わっていて、でも話すことは筋が通っていたり、ワクワクするような人生だった。

能登には人を引きつける魅力があるんだとわかった。能登で生まれ育ったことを感謝したい。

学校の先生らとは珠洲に対する思いが異なる人たちだった。時々田舎は不便だなぁと僕でも感じるのに、全く不便そうに感じていない。

買い物できるところが少ないのはやっぱり不便。田舎と都会の中間くらいのところに住みたい。親に止められても自分のしたいことをやり通してみようと思った。

移住してくる人たちはやっぱり変わり者だった。珠洲から出たいって私は言っているけど、都会に出たら「珠洲にはこんなきれいな海あるげんよ!」と教えて友達を連れていきたい。

教育へゆるやかに携わっていく

「自分を表現する力を身に着けたい」と話す高校生

珠洲市、そして奥能登地域には大学がありません。進路を考えるとき、大多数の学生が高校卒業後、県内の大学や専門学校に進学します。地元に残って就職する子もいるそうですが、かなりの少数派だそうです。

また、家族に「珠洲から出たほうがいい」という言葉をかけることがあることも耳にします。やっぱり一度は外に出て違う世界を見た方が良いとは思います。ですが、【何年後かに珠洲に帰ってきたらなにか変わっているかもしれない】というワクワクした予感を少しでも高校生に残せたらと思うのです。

今後の未来を担うと言われやすい地元の高校生は、奥能登地域に対し、いいイメージを持っている感触もありますが、奥能登で暮らすことに自信がなさそうなのです。ですが、移住者やUターンの方たちには、その不安を吹きとばす強くて優しい心があります。ときに背中をさすり、ときには厳しい言葉をかけるかもしれません。大事な選択のとき勇気を出してもらうために。その外の世界を知る移住者と少人数で話せる関係性をこれからも作り、互いにそっと背中を押せる関係を目指して、奥能登や珠洲の明るい未来を一緒にみたいなと思います。

テキスト:鹿野桃香
写真:sakika matsuda